ショウタイム

デビル

デビル

「……ええと、確か……クジョウとかって……数字の『九』に、条件の『条』って書いて、九条って……名前の方までは」

そのことに詳しい友人もいたけれど……あんな光景を見てしまった私は、噂とはいえ、そんなおぞましい話は耳にしたくなかった。

 ……ちゃんと最後まで話を聞いてくれた先生は、柊先生が始めてだ。

「……本当にこんな気味の悪い話、きいてくれてありがとうございます」

「人の悩みを聞くためにカウンセラーはいるんだから、どんどん相談してちょうだい、晶子さん」

 多分、あれは、クマに出会って恐慌状態に陥った心が、私に見せた幻覚なのだろう……あんなこと、実際にはあり得ない。

 それでも、私はこうして誰かにちゃんと話を聞いてもらい、胸のつかえを取りたかったのだ……これでようやく、一年ぶりにあの悪夢から解放されるかもしれない。

 そう思うと、ぎこちないけど私は笑顔をつくることができた。

「本当に、今日はどうもありがとうございました」

「また何かあったら、相談にきてちょうだい。遠慮はいらないわ」

 私は椅子から立ち上がり、ドアの前まで行くともう一度、頭を深々とさげた。

    *

 カラカラ……と戸が引かれ、患者が退室していくと、診療室にいたカウンセラー、柊斗和野はその眼鏡を外した。

 眼底の辺りを指で軽く擦り、眼を開ける。

 そこには先程まで人当りの良さそうなカウンセラーの眼は無い。

「……思いがけない収穫だな。精神の破壊性を持った魔術か? もしくは悪魔を住まわせているのか?」

 顎の辺りに手を当て、

「気になるな。私も知らない禁呪法かな?」

 一人独白している。

「九条、だったな……戸崎西高校で、現在は二年生か」

 眼を閉じ、ゆっくりと吐息をつく。

「『祝福の地』への道程は遠い。材料はあっても、あり過ぎるということはないしな。探ってみるとしようか」

 唇の端を、吊り上げる。そこに人らしい感情は欠片も見つけられない。

誰にも……そして、恐らく、斗和野本人にすらも。