ルス
ルス
家に戻り、女の治療を―と言っても、ガーゼやオキシドールといったもので応急的な処置をするだけだったが―していたが……さすがに天使だな。一眠りし、陽がのぼってくると腹の傷も大体は塞がったようだ。ケロリとして幸一が作った朝食を食べた。
……心配したのは骨折り損のくたびれもうけ、と言う所か、幸一?
「…………」
もっとも心中穏やかではあるまい。それもそうだ、クラスメイトが失踪したのは、あの吸血鬼絡みだと考えるのが当然の帰結。
行方不明となっているが、もう死んでいるだろうな。
「でも、おかしいのよねぇ」
女はベッドの上でサンマの塩焼きを不器用にフォークで解体しつつ、首を傾げた。
「あれじゃぁ、ごくごく普通の吸血鬼、普通の異端種なのよね。なのにどうしてあんな薄い気配だったのかしら?」
確かに、奴には不明な点が多い。まず、オレを通して殺気を五感で感知することが出来なかった。今までには無かったことだ。
そして、魂を喰らうことが出来なかった……よほど意思力が強いのか……いや、そういう問題ではないと思うのだが……
まあ次回があれば、奴の魂の『破壊』に全力を尽くそう。これはオレの沽券に関わる。
魂の味を楽しむ、などとという余裕を出さぬ程真剣に、だ。
ピンポーン……こんな朝っぱらに、誰だ? 俊也か?
「お前はそこで寝てろ」
幸一はいつもどおりの無表情で階段をおり、玄関のドアを開けると、そこにはやはり俊也がいた……まあ、脇に、余計な添加物があったのだが。
その添加物はヨレヨレの茶のコートを羽織っており、無精ひげを生やしている。頬がやせこけ、少々顔色が悪い。
「おう。悪いな、もういいぞ」