ショウタイム

奇襲

奇襲

敵が追撃をかけようとしたその時、風の刃が奴と幸一を隔てるように発生した。アスファルトの砕け散った破片が宙に舞う。

「ぼうっとしてないで! お日様出てないんだから、私、そんなに力は使えないのよ!」

 叫びつつ女は奴の懐に潜り込む。その手には槍。おそらく、自身の力を象徴した武具。しかし、火や水、土といった目に見えるものの物質具現化は比較的容易いが……夜に、風の力を具現化する……思っていたよりも力がある。天使の名は伊達ではないと言う所か。

 下方から槍を払うが、奴は……右腕を盾にした。腕がパックリと縦に割れている。女が一瞬、不意を突かれたような表情になったのも無理は無い。今の攻撃は幸一が体勢を整える時間を稼ぐのが目的。仕留めるつもりはなく、そもそも、当るはずがないのだ。

 それでも、これはかわせる。女は身を捩りつつ……その捩る動作が、急激に鈍った。右腕を犠牲にした成果か? あるいは、この天使が戦いなれていないのか? 強引極まりない接近により、女の脇腹には奴の貫手が突き刺さっている。

「アスト!」

 女は槍を薙ぎ、牽制することでどうにか敵を引き剥がした。奴は塀の縁に跳び退り、こちらを睨んでいる。だが、奴は右腕を失った。もはや幸一の敵では……いや!

 幸一も異常に気付いたのか、女の脇で急停止した。女の槍によって切り裂かれたはずの腕が……再生しているのだ。異常な回復速度。月光は、他にも奴の特徴を照らし出していた。切り裂かれたスーツの先には、禍々しい程鋭い爪。口には牙が突き出ている。眼鏡をかけた眼は赤い光を放っている。

「……吸血鬼?」

 女が片膝を突きつつ、思い当たる存在を口にした。

 確かに、これほどの回復速度を持ち、牙など生やしている奴は他にいない。それに、奴が吸血鬼ならば、先程、女の回避行動が急に鈍ったのも説明出来る。人間にも浸透している事実だが、相手の行動を一時的に奪うことが、瞳を通すことで吸血鬼には可能なのだ。

 塀の上の奴を睨む二人……奴は家屋の屋根まで後退し、そのまま逃走に入った。ドン、ドン、と飛び移る音が聞こえてくる。

「……」

 無言で彼方を睨む幸一の口は、きつく閉じられていた。