ショウタイム

デビルウィスパー77

デビルウィスパー77

女も酔っ払いの様子を見る限り、おかしいと思ったのだろう。

「う〜ん……私の知覚力も鈍ったのかな?」

 女ががっくりと肩を落とし、視線を下に向けた時だった。幸一の視界から、前方の酔っ払いが消失したのだ。その異様な光景が、反射的に幸一を動かした。

女の下腹部を蹴り飛ばし、半身を右に捻りつつその反動で幸一も女とは反対方向に動き始める。それとほぼ同時にボォ、と風を切るような音が耳元で聞こえた。回避しつつも背後を右目だけで確認した幸一が見たのは、例の酔っ払いだ。

 身体を捻り切り、アスファルトに手を突いた幸一の右耳からは、血が流れている。先程の奇襲を、完全にかわしきれなかったのだ。

「ちょっと! なにいきなり蹴って」

「来るぞ!」

 女はまだ事態を把握しきれていない。女にとって幸運なのは、この『異質な存在』が最初の標的にしたのは幸一だったことだ。

 しかし、この程度ならば敵とわかっていればどうということはない。今の攻撃から判断して、己の肉体を用いた直接攻撃しか攻撃手段がないらしい、というのも対処しやすい。

 奴がアスファルトを陥没するほどの強さで一歩を踏み込み、右腕を振り上げるのと同時だった。幸一は奴の右ストレートを僅かに左腕をあげることで軌道を逸らしつつ、右腕で奴の左腕をがっちりとつかんでいた。

 接近戦ならば、オレの『魂喰らい』以上の力を持つ攻撃手段はそうない。刻印が刻まれた左手を奴の下腹部に当て、

「魂を喰らえ、ジン」

 言われずとも、そうさせて貰う。オレは力を働かせ、奴の魂を……

待て! 

どういうことだ、これは?!

(……どうし?!)

 幸一の思念は半ばで途切れた。今の一撃で殺したと思われた眼前の存在が、反撃をかけてきたからだ!

間一髪、幸一は首を竦めることで奴の手刀をよけることができた。しかし、体勢が完全に崩れ、隙だらけ。確実にやられる。